ある人物とたまたま健康診断結果の話題になり、「ある数値がちょっと基準より低いみたいなんだけどこれってどうなんだろ?」という話になった。
その数値とは、e-GFR。腎臓に関する検査項目だ。「推算糸球体濾過量」という。授業ではクレアチニン・クリアランスということで学んだ。
腎臓には、糸球体という毛細血管が毛糸玉みたいになったものがあり、それがボウマン囊という袋状の物に包まれている。ここで血液が濾過され、血球成分や血漿タンパクなど以外は近位尿細管へと通ってゆく。(だから尿にタンパクや血液が出てしまっているということは、この糸球体での濾過機能に何らかの異常が出ているかもしれないということになる。)

で、冒頭のe-GFR値に関する成分が、クレアチニンだ。これは、筋肉代謝によって生成される老廃物で、通常であれば糸球体で濾過され、尿細管を通り、体外へと排出される。(’排尿)なぜなら、もう体にとっていらないものだから。
実は糸球体で濾過されたのち、また尿細管やヘンレループ等で再吸収されるものもある。
水とか。(99%再吸収)グルコースとか。(100%再吸収)重炭酸イオンやナトリウム、尿素なども、微量再吸収される。体にとって必要な物は捨てずにとっておくのだ。
クレアチニンがうまく尿中に捨てられないということは、糸球体の毛細血管からまた全身の血液循環にいらない成分が巡ってしまうということだ。結果、血清クレアチニン値は上昇する。
で、話をした人物のe-GFR値は、59。授業で習ったクレアチニンクリアランス値は、100が正常だった。気になって私の過去の人間ドック結果を見てみると90~100あたり。健康診断的には60を切ると注意が必要、というところらしい。
そして、もしこのe-GFR値が30を切ると腎機能高度低下、ひどいと15を切り始め、このあたりから透析を検討する状況になるらしい。

腎臓は、「うーん、最近腎臓の調子が悪くて。」ということはほぼない、黙って確実に私たちの全身を巡る血液や水分の調整をうまくやってくれている臓器だ。これが胃や腸だと違う。お腹が空いたり、胃もたれしたり、キリキリ痛んだり下痢したり便秘したり。何かあるとすぐに感覚的に分かるのが六腑(胆・小腸・大腸・胃・膀胱・三焦)の方だ。陰陽で言えば、陽にあたる。「陽はとかく騒がしい。」とも言われる。
対して、陰の臓器に関係する、五臓(肝・心・脾・肺・腎)は、ふだん控えめに重要な仕事をこなしてくれていながら、いざ悪くすると取り返しがつかない。つまり、不調が表立ってきたときはかなり進行してしまっているのである。

背景として、生活習慣病、とくに糖尿病の影響があるという。糖尿病の3大合併症として、①網膜症②末端神経症③腎症 が挙げられるが、どこも毛細血管が重要なはたらきをしている部分だ。糖尿病だと、血管がやられてしまうから、血糖値のコントロールが欠かせない。しかし、薬を飲んでるから気にせず食べて大丈夫、というのもチョット危ないと私は思っている。
病気は、なる前だったら治せる。「あ、ちょっとまずい・・・かも?」というときに、どれだけ気をつけ、自分の生活を見直すことができるかがカギなのだ。鍼灸も、その力強いサポート役にはなれる。でも、一番大事なのは、不調を起こしている根本原因にメスを入れることだと、私は思っている。
だから、自分が鍼灸師になったら、病気になってしまった人に治療してハイおしまい、でなく、その疾患の機序や注意点などをカウンセリングし、自分でできる対策などをアドバイスできる、町の保健室的なことがゆくゆくはできたらいいなと思っている。自分の主治医は、本当は自分自身しかいないのだ。