庭の木に、カブトムシが来ている。それも、何匹も。多いときは7~8匹くらい。

夢中で木の蜜をごくごく吸う姿がなんともかわいい。
夫は朝に夕に庭の様子を見に行って、私以上にカブトの動向を気にかけている。
そのうち、プラスチックの虫かごが庭に置かれていた。中はスイカの破片だけが入っている。フタは開け放たれていて、何もいない。

「?」
あれはなに?と夫に聞くと、メスにアプローチしても生殖行動がなし得ないかわいそうなオスがいたから、かごに入れて二人っきりにしてあげればうまくいくかと思った、とのことだった。
「・・・・・。」
私には、無理矢理プラスチックかごに入れられたメスの心の叫びが聞こえるようだった。
『やーだー!サイアク!あたしもう出るし、こんなとこ!』

カブトにはカブトの社会や営みがあって、庭の木はちょっとしたジオパークになっている。
夫の観察によると、カブトのオスは生殖活動が終わると次々と死んでゆくらしい。その後メスばかりになったカブト達は、女子みんなでなかよくならんで木の蜜をすすっている。きっと栄養をつけ、これからの産卵に備えるのだろう。人間のお母さんも、カブトのお母さんも、命を育み次世代へと生をつなげるのは、本当に大変な大仕事だ。
その後も新入りのカブト達が入ってきたり、けんかしたり、蜜をすすったり、生殖したり、死んだり、カブト村の毎日はめまぐるしい。
何でも、カブトの寿命はたった1年、この夏生殖活動をして命のバトンをつなぐと、オスもメスも役割を終えて死んでゆくのだそうだ。それを知ってますます今この瞬間の生を謳歌して欲しいと思うし、貴重な時間を奪うかのようにプラスチックのかごに閉じ込めたりなんかしないで欲しいと思う。
私にはカブトの木をしょっちゅう見にいっている夫の顔が、夏休みの小学生の男の子にしか見えない。
